寝起きでまだよく目が見えないまま
テレビのリモコンを手に取り
テレビをつけた
「あんたの家なんて借家でしょ!」
と子役の役者が言うのを聞いた
暗い気分になった
要するにあなたの家は貧困層だと言いたいわけだ
この陰気な台詞には覚えがある
同じことを小学生のとき女子に言われたから
あの頃すでに貧富の差の観念が芽生えていた
確かに貧乏人差別の言葉ではあったと思う
でも覚え始めたことについて
誰が黙ってなどいられようか
だからあの言い草は単なる口の運動だったとも思える
言いたいことを好きに言うことで成り立っている生活だ
毎日新品の言葉をもって
生活を飾りたい
子どもならなおさらそう
しかしもう僕たちは口の周りの神経を制御して
この誘惑に抗すべきだ
誘惑されて発した言葉は空しい
それが正しいものであろうとなかろうと
空しいものである限りはこれと闘え
僕はテレビを消し
身支度をして借家を出た
お金を稼ぐのは大変なことだ
どれくらいの人が自分の家を建てることができるのだろう
小学校からの下校の途中
住宅街を抜けながら家々を見たものだ
そしてあんな家に住みたいと思ったことが幾度もあった
時には口に出して友人に聞かせた
「わい、あんな家に住みてえ」
本当にそう思った
しかも大人になったら自分はあんな家に住むと思って疑わなかった
でもそうならなかった
相変わらず借家住まいだ
あの憧れの家々はまだ僕の心の中に建っていて
夜には窓の灯が僕を魅惑する
でも今は僕はそれを口に出しはしない
誘惑されて発した言葉は空しいと知っているから
ただ心の中で言う
「わい、あんな家に住みてえ」
これは真実だ
呼吸とともに胸に疼く
真実だ
川のように地に吸われずに流れる
強い真実だ