(一)
明方の台所で
豆腐がひとり
脱皮をしていた
家の者を起こさなように
静かに皮を脱いでいた
すべてを終えると
皮を丁寧に畳み
生ごみのところに捨て
冷蔵庫に入った
夕食は冷奴だった
僕は明方に見た
豆腐の脱皮の光景を
妻に話した
何、それ
と言って妻は笑った
豆腐も笑った
(ニ)
夕食に冷奴を食べようとして
豆腐を呼ぶけれど
テーブルの下で膝を抱えたまま
出てこようとしない
仕方なく
自分もテーブルの下に入って
同じ格好で隣に座る
しんみりとした夜
豆腐も自分もこんな暗闇から
生まれてきたのかもしれない
そう思うと懐かしく感じられて
いつもよりたくさん膝を抱える
(三)
夕食の冷奴を食べると
石鹸の味がした
石鹸だった
豆腐はすべて食べてしまったの
妻は悲しそうに言いながら
絹ごしのような滑らかな手つきで
ビールを注いでくれる
ベッドの上には
枕の代わりに豆腐が
ぐちゃぐちゃに捨てられていた
本当はこんなにたくさん
食べ残してしまったのだ
(四)
豆腐のプラモデルを買った
思ったよりもたくさんの部品があった
毎日夢中で組み立てて
その間にきみは
近所の羊飼いと駆け落ちしてしまった
数日後きれいな豆腐が完成した
通はわざと角などを崩すらしい
薬味はお好みで
と説明書にあったので
ネギと生姜を買いに出かけた
本当はきみに一番見せたかった
(五)
テーブルの下に
豆腐が落ちていた
食べるの、食べられるのに疲れて
飛び降りたのかもしれない
窓を開ける
初夏の風が吹いて
部屋の中を涼しくする
豆腐を庭の隅に埋めて
簡素な弔いの言葉を添えた
豆腐屋でその話をすると
お店の人は黒板の正の字に
一本付け足した
今日のおすすめは
厚揚げらしい
(について)
豆腐を食べているうちに
豆腐のことが気になり始めた
豆腐の色はどうだったか
豆腐の形はどうだったか
匂いや味はあったか
どのように崩れ
何を受け入れ
何を拒むのか
すぐにでも豆腐屋に行って
確かめたいけれど
今は豆腐を食べるのに忙しい
いつまでもなくならない豆腐を前に
長梅雨は明ける
たけだたもつさん、こんばんは。
一連目もう自分の顔がにんまりさせられ、二連目まで読んで、思わずぷっと吹き出してました笑 絵を想像すると、おかしくってたまりません!
にもかかわらず詩は、静かに進行していくんですね ....
白くやわらかな豆腐という食べ物は、作者と奥さんの大好きな食べ物なんでしょうか。
いつも食べて、いつも冷蔵庫に入ってたり、無くなったり ... まるでいつも身近にいて、ともに遊んだり、なんでも分かち合ったりしてた、家族か、ともだちのような存在を、作者はふと懐かしく、愛おしく思い出して、こうして詩にしたためたのでしょうか。
作者から豆腐の精 (大切な人 ) への、あたたかな思いを感じさせてくれた、楽しくて、とても素敵な詩でした! ゆめの PS: こちらの作品を読んでいて、自分の中で思い出したイラスト画家さんがあったので、よかったら、ツイッターで絵を見てみてくださいね 🎨 ガンジー石原さん https://twitter.com/ganji_ok
読み進めていると、なんだか豆腐が可愛らしく感じられてきます。
特にテーブルの下に潜ってしまった豆腐さんが可愛いです。もしかすると、豆腐の弱くて無力な感じが可愛いのかもしれません。