男のこぶしが握りしめられたとき
男はひどく憤っていた
男が何に怒りを覚えたのか
男自身にも定かでなかった
男にとってその怒りは異質のものであり
男によるとあさっての方角から突如、飛んできたらしい
男は落ち着きを取り戻していた
男は自分が憤りを覚えたことは覚えていた
男は怯えていた
男のこぶしは幸いにして誰も傷つけなかったが
男自身のこころに爪痕を残したようだった
男は自分の怒りが自分自身を傷つけることにひどく怯えていた
男は自分を慰めようとしたがうまくいかなかった
男は救いを求めたが
男は孤独であった
男がそうこうしているうちに
男の憤りはすっかり色あせて消え失せた
男は安心した 時間が解決することもある
男にとって一瞬の憤りは
男の周りも
男自身も傷つけることなく過ぎ去ったのだった
相野零次様、こんばんは。
詩を読ませていただきました。
怒りの感情が沸いて去るまでの過程が分かりやすく言語化されていて素晴らしいと思いました。
また、周りも自分自身も傷つかずに去って行って本当に良かったと思いました。